« 草間彌生展 | トップページ | JTBカード会員誌で紹介 »

2004.12.01

自伝の小説by李昂

041130_23360001.jpg
10月に出た李昂の「自伝の小説」をようやく読了。
もともと本を読むのが遅いからだが、でもつまんないとか難しいとかで時間がかかったのではなく、最後の4分の1くらいはほとんど1日で読んだ。

これは、面白い。
「自伝」と「小説」という矛盾する言葉が同居し、しかも原題からして日本語の「の」が使われているというタイトルの仕掛け(原題は「自傳の小説」)からしてタダゴトではない内容を予感させるのは、No.20「中華モード」で上野千鶴子氏が指摘したとおり。
謝雪紅という実在の台湾の革命家の伝記と、その物語を伯父から伝え聞く「わたし」という語り手の立場・状況がシンクロし、また、台湾・日本・中国・ソ連を渡り歩く謝雪紅の足取りのために、物語は時空を超えて多層的に交錯する(ということも「中華モード」で藤井省三氏が言及しているとおり)

だがこの小説は、頭が混乱してくるような小難しい小説ではない。
その複雑な構造を、寓話的なユーモアで、さらりと読ませてしまう。
そう、これはいわば、ワイドショーだ。
政治の物語を「性」治の物語に置き換え、ワイドショーを見るような、下劣で、だけどおそらく根源的な好奇心を刺激する。
セックスや月経などの執拗な性的描写(だけどポルノとはちがう)や語り伝えられる伝説の数々など、生理的な欲求・恐怖に根ざしたもので物語は彩られ、人間は結局のところ、そうした動物的エネルギーに動かされているものであることが強調される。
それを私小説的な小さな世界で語るのではなく、かつての台湾最大の左翼党派のリーダーを主役にすることによって、スケールの大きな物語に仕立て上げる。
そこが李昂の妙味だろう。

|

« 草間彌生展 | トップページ | JTBカード会員誌で紹介 »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 自伝の小説by李昂:

» あたまの中身 [SERRC 日記メモ]
 たぶんわたしの頭の中は30%くらいが島田雅彦の言葉で構成されている。だから、THメモ板の「自伝の小説」に関するメモを読んだとき、頭の中に現れたのは「これは彼岸... [続きを読む]

受信: 2004.12.03 03:02

« 草間彌生展 | トップページ | JTBカード会員誌で紹介 »